不動産業者として相続の勉強をしていると、その奥の深さに学習意欲をかき立てられます。
今回は不動産業とはあまり関係がないのですが、相続人が誰もいない不動産の行く末を考えてみましょう。
相続人不存在の相続財産
「相続人不存在」とは、誰かが亡くなったとき「その人の財産を相続する人が誰もいない」という状態です。
相続する人がいなければ、残された財産は行き場を失ってしまいます。
さて、これらの財産はどうなってしまうのでしょうか?
【一般的な財産の行方】
相続人のいない相続財産は、検察官や利害関係人の申し立てによって選任された「相続財産管理人」によって処分されます。
相続財産管理人の選任は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てて行います。
専任されればその旨を公示し、以下のような役目を果たします。
- 戸籍などを取り寄せ、相続人がいないか捜索する
- 相続財産の換価
- 相続債権者への支払い
- 受遺者(遺言によって財産を譲り受ける人)が遺贈を受けるかの意思確認
- 特別縁故者への遺産分与
これらの作業を全て終えても財産が残った場合、残りの財産は国庫へと帰属します。
【他の財産とはちょっと違う不動産の事情】
一般的な相続財産はおおむね上述の作業によって処理されますが、不動産にはちょっと違う事情が存在します。
一般的な財産は単独所有がほとんどですが、不動産の場合「共同所有」という概念がありあます。
もちろん全ての不動産に当てはまるわけではありませんが、意外と多いので注意が必要です。
相続人不存在の不動産に「共有者」がいる場合
民法255条には、共有者が死亡して相続人がいない場合、その持ち分が他の共有者に帰属する旨の規定があります。
その規定に従うと、相続人のいない不動産は、他の共有者が引き継ぐことになりそうです。
民法255条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
「共有者」と「特別縁故者」はどっちが優先?
相続人不存在の不動産に共有者がいた場合、不動産はすんなり共有者のものになるのでしょうか?
実はそうでもなさそうです。
相続不存在の場合、相続財管理人は「特別縁故者」が名乗り出ないか調べます。
この特別縁故者は「相続人」の身分を有していない第三者なのですが、生前、故人と内縁関係にあったり、故人を献身的に看護したりなど、特別な事情により遺産を受け取る権利のある人です。
民法958条の3(抜粋)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めていた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、それらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
相続人はいないが特別縁故者がいる相続不動産の場合、共有者と特別縁故者、どちらが優先されるのでしょうか?
判例によると、共有者と特別縁故者が存在する場合、特別縁故者が優先して遺贈を受けられるそうです。(最高裁判例平成元年11月24日)
従って共有者は、相続人も特別縁故者もいない場合に不動産を取得できることになります。
判例趣旨
共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続きが終了したときは、その持分は、民法九五八条の三に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、同法二五五条により他の共有者に帰属する。(反対意見がある。)
相続人不存在不動産に対する国の対応
現在、引き取り手の不在や所有者不明で国庫に帰属されている不動産は、相当数存在しています。
それらの多くは利用価値が低く、管理コストの増大が問題視されています。
国はこれら管理費や不明の所有者を捜索する費用を抑えるため、将来的に国庫帰属となる可能性のある財産に対して、死因贈与契約を締結するなどの取り組みを行っています。
しかし相続人不在などの不動産がスムーズに国庫帰属されても、それはストックされた不動産を活かすことにはつながりません。
引き取り手のない不動産が活躍できるよう、多様性のある世の中になることを願うばかりです。